自転車が題材の小説3選
どうも!昨年末に妻と100kmライドして以来、すっかりサイクリングロードから遠ざかっているtakeuchiです。
今回はちょっとインドアな方向性から、自転車を題材にした小説を3つほどご紹介したいと思います。
まずは、羽田圭介・著「走ル」から。
ふとしたきっかけで手に入れたビアンキのロードレーサーを駆り、東京から青森へひたすら北上する男子高校生を描いた作品です。
随所で挿入される携帯メールを介したクラスメイトとの人間模様にやや興を削がれる感もありますが、ただ衝動的な思い付きから淡々と北上を続ける少年のストイックな内面描写と、高校を無断欠席しながら旅を続けるホームシックにも似た背徳感が物語全体で綯交ぜになっており、心の奥底にある冒険心が久々に喚起された一冊。
自転車で走り出したいけど寒いのは嫌!なワガママな御人にはピッタリかと。
続いてご紹介するのは近藤史恵・著「サクリファイス」です。
本格的なロードレースの世界を舞台にしたサスペンス小説である本作ですが、この作品の凄いところはロードレースとサスペンスという趣が異なる素材を融合させただけでなく、「エース」や「アシスト」「プロトン」といったロードレース特有の要素をきっちりと咀嚼し、物語として昇華させているレトリックが秀逸な点にあります。
自転車ブームの日本でもまだまだマイナースポーツの感があるロードレースですが、あまり関心がない読者層にも配慮された構成になっていますので、純粋なサスペンスとして楽しみたい方にもオススメできる一冊です。
(続編も出版されているそうです。ハードカバーは置き場所に困るので今一つ食指が動きませんが、文庫になったら読みたいな〜。)
最後は、風間一輝・著「男たちは北へ」。こちらはハードボイルド系サスペンスです。
「走ル」と同様、東京から青森まで自転車で北上する物語ですが、主人公は高校生ではなくアルコール依存症の中年男性です。
ひょんなことから自衛隊の極秘文書を拾ってしまい、次第に巨大な陰謀へと飲み込まれていくストーリーは緻密ながらテンポ良く進み、心に決めた目的のために旅をする主人公の内面と、物語中で出会う少年が男に成長する過程が丁寧に描写された良作です。目頭が熱くなる読了感に包まれること間違い無し!今回ご紹介した3作品の中では一番大好きな作品だったりします。
余談ですが、「男たちは北へ」には何度も峠越えのシーンが出てきます。
時折絶壁にも見える上り坂を、自転車のペダルをひたすらに踏みしめて越えて行く描写があまりにリアルなため、気が付くと歯を食いしばりながら読んでいることがしばしばありましたが、それもそのはず。
この作品は風間氏本人が物語とまったく同じスケジュールと装備で走破した経験を元にして描かれたものだそうです。
インドアで燻ってる自分には、しばらく縁がない距離でしょうね。いや、恐れ入りました。