株式会社タフス

夜明けの道行き

 近所の骨董屋:五右衛門にて。
一閑張りの皿を偶々眺めていると、お店の奥から、滅多とお会いする事が出来ないはずの富山先生(その日はグレーと紺の横縞の、先生の背丈には長すぎるマフラー、褪せたベージュのダウンベストという装いで、鑑定のお仕事で居合わせた)が出ていらして、漆の下の紙に印刷されているのは、古い書物「道行旅路の花聟」の台本である事を教えてくださいました。

 先生は、劇の見せ所である口説き部分の暗誦を言い切ると(その間私は、先生の話についていきたい反面、難しくてもうよく分らなくなっていて、先生の伏せた真っ白い短い睫とその下の深い眼差しを観察し乍ら過ごして)、話を夜明けの事に移されました。
 
 舞台は、富士山を背景に春の花が咲いていて、昼間の様な感じがしますが、実際はというと、場所は戸塚の山中で、時間帯は夜明け前の設定なのだそうです。

「宵、東雲、暁、曙、日出…最近ではあまり言われませんが、夜明けと言っても、
日本語では時間帯でその呼び方を区別します。」と先生。

 そういえば、「彼誰時 かわたれどき」なんて素敵な呼び名もありましたっけ。
 写真は12月の鎌倉海岸です。「東雲」の空かと思っていますが、諸説あるそうなので、呼び名の区分は朧けでも良いかと考えています。「有明」と言われる夜明けの空もありますが、写真の空には星が居ます。
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